AV業界の光と影~“ラク”を求めてAV女優に~
昔はAV女優になりたがる女性が非常に少なかったことから、マイナス面を持っている女性でも裸をさらす覚悟さえあれば働けたのです。
そのようなマイナス面を持っている女性は20世紀までは非常に多かったものの次第に減っていき、2000年代のAV業界にはまだ見られましたが2010年以降は少数派となっています。
ここでは、マイナスイメージの源泉となったかつてのAV女優の姿を見て行きたいと思います。
AV女優の典型的イメージを考える
AV業界には色々なAV女優が働いています。
今ではAV女優が一般メディアに出演することが増えましたし、AV女優達がグループで歌手活動などをして人気を博すこともあります。
AV女優の社会的地位は確実に向上しており、この背景には社会的な道徳観念が変化していることがあります。
道徳観念の変化による影響を最も受けるのは若い世代です。
今の時代の子どもや青年層の中では、AV女優を蔑視する人は昔に比べて確実に少なくなっています。
しかし、それでも中高年層ではAV女優と聞くと眉を顰める人は多く、少なくとも自分の娘や親類の女性がAV女優になると言えば猛反対するでしょう。
これは、AV女優に対する凝り固まったイメージを持っているからです。
そのイメージとは往々にしてマイナスイメージであり、低学歴である、虐待を受けるなど異常な経験によって異常な精神性が生み出された、道徳的に欠如している、お金のことしか考えていない、一般的な働き方ができないなどなどです。
このイメージは今でこそ根も葉もないもので、最近のAV女優の中には高学歴で、家庭に恵まれ、道徳的にもしっかりしており、お金以外のもの(やりがいや自己表現など)をAVに求めることが多く、公務員や国家資格を伴う社会的地位ある仕事についていたというケースもあります。
したがって、いまだにマイナスイメージを抱いているというのは旧時代的な考え方なのですが、それもある程度は仕方のないことです。
その“旧時代”とされる時代、すなわちAVの黎明期にはそのマイナスイメージの通りのAV女優たちが多かったからです。
もちろん、今ではルックス的にも性格的にもハイクオリティな女性がAV業界には溢れているため、そのような女性はAV女優として活躍することは難しいでしょう。
中学生でドロップアウト
AV女優のMは出演本数150本以上の売れっ子企画AV女優です。
最近では企画女優の数が増えすぎたため企画女優としてこれほどの出演をこなすことは難しくなっていますが、彼女が活躍した2000年代初頭は企画女優でもまだまだ働く場所があったのです。
彼女は東京ある上流家庭に生まれました。
AV女優に抱かれがちな、機能不全家庭、虐待、ひどい貧乏などとは無縁の存在であり、小学生のころにはお茶やそろばんやピアノを習い、週に4回は塾に通っていました。
成績もよかったため、AV女優にありがちな「頭が悪い」イメージにも当てはまりません。
真面目なお嬢様だった彼女ですが、中学校になると突然変わって不良少女になりました。
いわゆるヤマンバギャル(全身を黒くし、髪の毛を金髪にし、独自のメイクをした人々。1990年代に流行った)などといったたぐいの人種であり、友達と遊び回って学校に行かなくなりました。
と言っても援助交際をしたり犯罪行為を犯すような遊びではなく、一緒にぼーっとしたり、だらだらと過ごすだけで、おそらく親の元で金銭的には何の不自由もなかったものの窮屈な人生を歩んできたことへの反発だったのでしょう。
当時はギャルが流行っており、あこがれもありました。
とにかく学校が楽しくなく、朝は起きずに学校に行かず、昼から夜まで友達と一緒に遊び回っていました。
ギャルに目覚めた彼女は中学校に行かず、ギャルメイクとギャルファッションにきめて毎晩池袋で遊んでいました。
遊び場所は主に池袋。
池袋に行けば誰かしら知り合いがたむろしていたため、あてもなく適当に過ごしているだけ。
それの何が楽しいのだと思うかも知れませんが、彼女にとっては何も考えなくても済むことがラクで楽しかったのです。
この「ラクを求める」姿勢が彼女をAVへと行きつかせる源でもあります。
お金はどうしたのかといえば、全て親からもらっていました。
お金が無くなったらすぐにもらうだけです。
毎日1万円は使っていたため、おそらく30~50万円はもらっていたのだとか。
親は学校に行くように怒鳴りつけることもありましたが、彼女が言っても聞かないとなると放任したそうです。
学校に行かないことは拒絶の表れでしょう。
不登校になる子どもというのは、それが遊ぶための不登校であれ引きこもるための不登校であれ、自分を傷つけられないために、傷つける学校という存在を拒絶しているのです。
彼女の場合はどうなのかといえば、ラクであることを重視する自分がいるゆえにラクとは離れた存在ある学校を拒絶したというところでしょう。
実際、校則に縛られて髪の毛を自由にできなかったり、スカート丈などもうるさく感じていましたが、ヤマンバギャルになってしまえば教師も諦めて何も言ってこなくなりました。
ラクであるかどうかを人生の主題にして生きる彼女には何の中身もありません。
何かに怒ることもなければ反抗することもありません。
それは、怒ったり反発したりするのはラクではないからです。
しかも毎月50万円のお小遣いをもらえるのですから、ラクでないことは全て拒否することもできます。
ラクさのために学校を拒絶し、付き合うのにエネルギーがいらない友達とだけ付き合い、何も考えずに毎日を過ごしていました。
高校を中退
一応高校に進学した彼女は、一年生の一学期で退学してしまいます。
それからはニートになりました。
普通ならば若いエネルギーというものは誰にでもあるもので、学校に通っていれば学業やスポーツで発散され、何らかの理由から学校をやめた人もバイトに精をだしたり、焦りからとりあえず肩書や資格の取得を志すものですが、彼女にはそんなものはありませんでした。
ただ授業がうざかったというだけで、何も考えずに退学しました。
お金がなくなれば母親にねだって池袋へという生活が始まりました。
彼女にとっては、高校などというものは行くだけ無駄な存在でしかありませんでした。
入学したといっても相変わらず通学はしないため、辞めた方が却って親孝行になるという思いもあったようです。
学校をやめたからどうしようという事もなく、辞める前も辞めた後も何も変わりませんでした。
とにかく自分がやりたいことでなければやる気が起きないのですが、そもそもやることがない。
毎日がだるくてだるくて仕方ないといった状況です。
趣味もなく、ギャルのたしなみとして一時期はパラパラにハマったこともありましたが、結局半年くらいで飽きてしまいました。
無気力感への焦りや不安や葛藤などはありませんでした。
将来はどうしよう、大人になったらどうなるのだろうということをたまに考えることもあります。
しかしどうにもならないという諦めがあり、考えるだけ無駄・面倒なだけと思っています。
そのとき楽しければいいと思っているものの、ならば楽しいこととは何かというと友達と一緒にいることが楽しいというだけです。
友達も大人になったらどうということは全く考えない人ばかりなので、とにかく「ラク」なのです結局、結婚できれば何もしなくてよいのでそれでいいという考えもあるようです。
彼女にとってはラクなことがすなわち楽しいに繋がるのでしょう。
家から追い出されAV女優へ
しかし、彼女にも転機が訪れます。
それまでは毎月50万円のお小遣いをくれていた母親が、ある日突然、18歳になったらもう一切お金はあげないと宣言したのです。
雰囲気からもう甘えることはできないと悟った彼女は求人雑誌を読んでみましたが、それまでバイトをしたことはない彼女にとって、時給800円や900円といった金額から月給を算出した結果「安すぎる!」と言う結論に達しました。
ラクであることを求め続け、何もせずに毎月50万円もらっていた彼女からすれば、時給800円で8時間を22日働いたとしても約14万円しか稼げないというのは異常事態だったことでしょう。
馬鹿馬鹿しく感じながら求人雑誌を読み漁りました。
しかしギャルとしての自分が前提になっている彼女にとって、事務や営業はまず無理です。
また始業時間が早すぎるという問題もあります。
1日に数万円を稼げて、好きなことに休むことができ、朝早く起きる必要がなく、服装や髪形が自由であること、これが彼女が仕事に求める最低条件でした。
当然、どう考えても風俗やキャバクラしかないという結論に達するのですが、キャバクラは深夜まで仕事があるため友達と会えなくなるので却下。
となると風俗しかありませんでした。
風俗の早番で働き、そのお金をもってそのまま遊びに行くという生活が始まりました。
イメクラで働き、最初はオジサンにフェラをすることに抵抗がありましたが、早くも一人目で慣れてしまい、なんともラクな仕事だと思うようになりました。
しかし、やがて嫌になったことがあり、店に行かずにクビになりました。
嫌になった理由は覚えておらず「なんか嫌になった」ためにお店を変わりました。
移転先のお店は風俗のグラビアなどに載ると報奨が出るお店であったため、「じゃあグラビアに出まくろう。オジサンの相手をするよりも裸の写真を撮られた方がラクだ」と思うようになりました。
取材費はグラビアで3万円、名鑑で5000円ですが、名鑑などは15分で終わることですからラクでした。
最初はバレないかとドキドキしていましたが、何回かやると気にならなくなりました。
親にバレることは恐れましたが、友達の間ではヤリマンで有名だったので大して気にせず仕事をするようになりました。
「ヤリマン」と聞けば、やはりAV女優とはそんな人種かと思うかも知れません。
しかし、彼女にはその自覚はありませんでした。
ただ、誘われたら断るのが面倒でありヤってしまった方がラクだからヤッていただけです。
彼女にとってはセックスは「どうでもいいこと」であり、そのどうでもいいことを仕事にしたらラクだったというだけのことだったのです。
しかし、AVはそれほど楽な世界ではありません。
ラクそうだと思って始めてはみたものの、朝は早いし、面倒くさいし、嫌だけど行かなければならないという状態です。
彼女にとってはとても続かない仕事ですが、なぜかAVだけは続いており、彼女自身びっくりしていますが、「多分、もう親は頼れないし、辞めたらまた別の仕事探さなきゃいけなくて面倒くさいから」と語っています。
ラクではないことばかりの人生のなかでも、AV女優という仕事は比較的ラクだったという事でしょう。
彼女は超売れっ子企画女優になり、1年目で150本に出演しました。
すごい出演本数であり、彼女の働いていた時代のギャラは今の倍以上と言われますから、さぞかし稼いだことでしょう。
しかし、彼女にとって貯金や金銭管理はラクなことではありませんから、貯金はゼロです。
衝動買いをしてしまうタイプであり、衝動を抑えることはラクではないため、何でもついつい買ってしまうのでしょう。
彼女は全身ブランドもので飾っていますが、細かな物までブランドものにすることで散財してしまいました。
しかし、別に本当に欲しいと思っているわけでもありません。
別に欲しくはないけれど、買い物をしていると特に何も考えなくても時間が過ぎていくからです。
移動も面倒さを少しでも軽減するために、少しの距離でもタクシーで移動しています。
徒歩5分以上ならば全てタクシーです。そのような生活のせいで、お金はすぐに無くなってしまいます。
付き合うのが面倒くさいため彼氏もいない、先のことは面倒くさいので考えない、楽になるために結婚は考えている、比較的ラクだからAV女優をしている。
彼女の考え方は一貫して「ラク」を求めていました。
いくらラクを求めるからと言って、企画女優として時にハードな仕事をこなさなければならないことについてはどう思っているのでしょうか。
AVでは、単体女優はファンが多いためソフトな内容でも売り上げることができるため、過激な行為が求められないことが多いものですが、企画女優は知名度がなく内容で勝負しなければならないことが多いため、ハードな内容になることが多いのです。
男たちに輪姦されたり、何十発ものザーメンを浴びたりしなければなりません。
しかし、彼女は仕事であると割り切ることで心が揺れることはないようです。
やらずに文句を言ったりすれば撮影は終わらないため、彼女にとってはラクではない状態になってしまいます。
だから言われたままの撮影をこなしています。
彼女のように、ラクさを求めてAV女優になる女性は少なからずいるようです。
彼女のように筋金入りのケースは少ないでしょうが、他の仕事に比べてラクに稼げそうだという思いからAV女優になる女性がいるのです。
しかし注意しておきたいのは、単にラクさだけを求めてAV女優になったところで、今のAV業界では稼げないという事です。
今のAV業界には何千人というAV女優が活動しており、トップAV女優になるためにラクを求めずに頑張っているAV女優もたくさんいます。
そのような中で「ラクになりたい」という思いで活動したところで、すぐに弾かれてしまうのがオチです。