AVの「素人モノ」ってどんなもの?
AVには非常に多くのジャンルがありますが、その中の一つに素人モノというものがあります。
しかし、何を以て素人モノとするのかと聞かれればその定義はあいまいであり、捉えにくいジャンルでもあります。
素人モノはなぜそう呼ばれるのかと言えば、素人モノに登場する女性は、基本的にはAVモデルプロダクションに所属しているAV女優や風俗店に勤務する風俗嬢などといったプロ、つまり素人とは対極にある玄人が出演しておらず、一般の女性を起用することを建前としているからです。
このような、素人というジャンルはいつからあるのでしょうか。
素人モノの歴史は古い
エロの歴史に詳しいある関係者の説によると、玄人が登場しては素人モノになりえないという事から、昔は芸者や不良少女や人妻などを起用して撮影が行われていたようです。
といっても、風俗嬢とは異なるものの似た属性を持つ芸者、援助交際などを売り物にする不良少女、性欲が強く背徳感あるセックスに興味を持つ人妻などといった、エロと関連ある女性が出演していたことが窺えます。
もっとも、ここで指している「昔」というのはAVが登場する以前の話であり、アダルトを専門とするモデルプロダクションという存在も確立していなかったため、玄人と素人の境界は曖昧であると言えます。
アダルト専門のプロダクションが登場するのはAV誕生以前のピンク映画の時代に活動を始めた火石プロダクションであり、このプロダクションでは街頭の女の子をスカウトしてピンク映画に送り込んでいたそうです。
ただし、当時はまだアダルト産業が成長していなかったことから、アダルト産業と無縁の女性がスカウトされてピンク映画に出演したものの1本だけで消えていくことが多く、そういう見方では素人が出演していたと捉えることもできるでしょう。
アダルトメディアが素人という言葉を打ち出すようになったのは70年代のことでした。
エロ本その他の商業誌に「素人娘」などの形で素人という言葉で登場したのが初めてであり、それまではプロの女性が登場しない雑誌は価値がなかった所へ、あえて初々しく穢れがなく、読者にとってより近い存在である素人を登場させることで価値を見出したのです。
このようなエロ本は自販機で売られていましたが、自販機本に掲載される女性は、女性誌や求人誌に水着モデル募集という広告を出し、応募してきた素人の女の子を口説いて脱がして撮影するという手法によって製作されていました。
それ以外にも、街頭で女の子に声をかけてパンチラの撮影やそれ以上の撮影を行うという手法もとられていました。
どちらも正真正銘の素人を撮影したものであり、プロを撮影すればパンチラで済ませることはできないのに対し、素人ならばパンチラだけでも価値があることが発見されました。
素人モノAVの面白さ
AVにおける素人モノの歴史も古いものです。
代表的な素人モノAVがナンパ物ですが、これはカメラを持ったスタッフが街頭で女の子に声をかけて出演を交渉し、撮影していくというドキュメントタッチの作品です。
また、AVのナンパ物では男性が素人女性をナンパするものばかりではなく、AV女優が素人男性を逆ナンパして撮影するスタイルの作品もあります。
ナンパ物の作品では本当の素人を撮影することで多くの作品がヒットしましたが、これは単にヒットするばかりではなく、プロのAV女優をキャスティングするものではないため、低予算で作れるというメリットがありました。
なぜナンパ物AVがヒットしたのでしょうか。
その魅力は、素人女性の脱いだ姿を撮影できるというのはもちろんのことでしたが、面白いのはナンパ物特有のハプニングが起こる所です。
例えばナンパ師がAV男優として登場し、街頭で女の子に声をかけて個室に連れ込むことに成功するのですが、そこから先にはハプニングがあります。
声をかけた時点では「パンチラを撮るだけだから」などと言って誘っているわけですが、当然それでは終わらず説得して脱がす方向へ持っていこうとします。
また、その先にはフェラやセックスにもっていこうとするわけです。
ナンパされた女の子はそのようなことは聞いていないため困惑し、思わぬ抵抗を示す場合もあれば、予定していた以上にみだらになることもあります。
普通のAVならば必ずセックスが鑑賞できることが約束されていますが、ナンパ物AVでは先が分からないスリリングさがあるのです。
素人モノが確立されるまで
素人を起用することで撮影可能となるこのような面白さとエロさには当然注目が集まりました。
このころ特に活躍したのがカンパニー松尾監督です。
カンパニー松尾はV&Aプランニングに入社2年目の22歳で監督デビューした鬼才ですが、ドキュメントスタイルの可能性にいち早く気づいて様々な作品を発信していきました。
この可能性を気づかせたのはカンパニー松尾に届いた一通の手紙だったといいます。
この手紙には自分の妻をAVで撮ってほしいという願望が書かれていました。
これだけ聞くとひどい夫だと感じますが、実際にはそうではなく、事故でセックスができなくなってしまった夫は、妻に女としての喜びを味わわせるためにAV男優に抱いてほしいというものでした。
撮影はドキュメントタッチで進められ、松尾は撮影をしながらプロにはない生々しさからくるエロさを知りました。
この経験をきっかけに、松尾は1991年から「私を女優にしてください」というシリーズを撮り始めました。
全国の素人女性を対象として出演希望者を募り、出演希望があれば全国どこへでも出向いてハメ撮りを行ったのです。
もちろん、作風はロードムービー風のドキュメントでした。
このシリーズに登場した女性は正真正銘の素人女性でした。
美女もいればおばさんもおり、そのことによって素人らしいシリーズに出来上がっていきました。
松尾は女性に一人の男性として接することで、AV女優を撮影しているという雰囲気が出ないように注意を払いました。
この「プロのAV女優ではない」という姿勢がヒットの背景にはありました。
プロのAV女優は、どうしても仕事としての割り切りが大きくなるため、どうしても生々しい作品にはなりません。
しかし、松尾の企画に応募した好奇心旺盛な女性は、お金が第一ではないため仕事意識がなく、プライベートに近いセックスを撮ることができます。
松尾が女性のところに出向いて撮影したのもこれを実現するためで、女性が暮らしているフィールドにこちらから出向いた方がプライベートが出やすいだろうという配慮からでした。
素人という建前があったとしても、撮影現場に来てもらって撮影をすると、素人女性はその女性がイメージしている範囲内でAV女優を演じてしまうため、もう素人っぽさがなくなってしまうのです。
松尾が送り出した作品は「私を女優にしてください」だけではなく、実際に松尾がテレクラを利用して出会った素人女性をハメ撮りする「これがテレクラ!」や「燃えよテレクラ」といった作品もあります。
ちなみに、「私を女優にしてください」は松尾がV&Rプランニングを退社して自分でメーカーを立ち上げた後も「私を女優にしてくださいAGAIN」として継続されており、現在も続く長寿シリーズです。
このほか、素人モノというジャンルが確立された背景には、レンタルメーカーとセルメーカーのバトルがあります。
当時はレンタルメーカーという一群のメーカーが人気女優をキャスティングしてレンタルAVを作り、レンタルビデオ店に数万円で卸すことでAVが流通していました。
そこにセルメーカーが参入し、レンタルビデオ店ではなく個人の消費者に数千円という低価格でAVを販売し始めました。
しかし、セルメーカーが参入した当初、人気AV女優は全てレンタルメーカーに抑えられているため、セルメーカーは企画女優をキャスティングせざるを得ませんでした。
企画女優とは無名のAV女優です。
無名であるがゆえに、そのAV女優を「素人」という設定で出演させても視聴者は素人として見ることができます。
素人モノには一定のニーズがあるため、セルメーカーは自然にその手法を採るようになりました。
つまり、無名の企画女優を素人として撮影することが普通になっていったのです。このような企画女優の中から人気に火がついて誕生したのが企画単体女優です。
上原亜衣や成瀬心美、琥珀うたなどという大変な人気を集めた企画単体女優も、最初は企画女優として素人役で出演していたものです。
つまり、以前はカンパニー松尾のように本物の素人を起用して素人モノを撮影するのが普通でしたが、この時代になるとAVモデルプロダクションに所属する企画女優を素人に見立てて素人モノを撮影するのがスタンダードになりました。
ユーザーも多くがこのことを承知してみていることでしょう。
あるいは、本当に素人が出演していると思って見ていたところ、見た事のある女性が出演していることから、実はAV女優であったと気付く人もいるかもしれません。
ナンパ物などは例外的に本物の素人が出ることがありますが、それ以外は本当の素人が出演することはありません。
ナンパ物でも企画女優が仕込まれることの方が多いのです。
できれば本物の素人を撮影するためにナンパは行うものの、女の子が捕まらなかったときの保険として企画女優を用意しているものです。
また、雑誌でも同じです。
素人を起用しているとするスタイルのアダルト雑誌は多いものですが、実際にはプロが素人を演じていることがほとんどです。
アダルト雑誌においても、素人モノが出版され始めた当初は本物の素人を撮影していましたが、今やそのような雑誌はほとんどありません。
もっとも、本物の素人がいまだに存在する場所も存在します。
それはインターネットです。
例えばTwitterでは女性がフォロワーに対して自分のヌードや局部の写メを掲載するケースが珍しくありません。
また、FC2ライブに代表されるように、彼氏やセフレとのセックスをカメラを通じて有料配信したり、自分のオナニーを有料配信することでお小遣いを稼いでいる女性がいます。
このような女性たちはほとんどがプロダクションなどには所属しない素人女性です。
なぜナンパAVはなくなったか
一時代を築いたナンパAVでしたが、今では撮影することが難しくなりました。
なぜならば、2008年に東京都の迷惑防止条例が改正されたことによって、路上でスカウト行為を行なったり、キャッチしたりすることが禁止されたからです。
これによって、路上で女性に出演を交渉するナンパAVの撮影は不可能となってしまいました。
現在でもナンパAVは存在しますが、それに出演する女性は本物の素人ではなく企画女優を仕込んだものです。
このような作品では、素人に扮した企画女優をAv男優やスタッフがナンパするわけですが、背景や通行人にモザイクをかけているものですが、これも取り締まりが厳しくなる中でできるだけトラブルを起こさないためのメーカーの自主規制です。
また、企画女優が仕込まれる背景にはもうひとつの理由があります。
それはユーザーがそれを求めているからです。
本来の素人モノのありかたからすれば本物の素人が出演することが求められそうなものですが、2000年に入ってAVの市場はレンタルからセルへと移行するとクオリティの向上が求められるようになり、そのクオリティを素人では満たすことができなくなったのです。
レンタルが主流の時代は数百円で借りれば見られるためそれほどクオリティが求められませんでしたが、セルが主流になると数千円で買う必要が出てきたためです。
ネットが普及するとユーザーの声がレビューなどを通してメーカーに容易に届くようになりました。
また、そのようなレビューは他のユーザーへの購買意識にも影響を与えるようになったため、AV業界は「クオリティを上げてほしい」というユーザーに応える必要が出たのです。
このような背景もあって、もはやナンパAVで本物の素人を使うことはできなくなり、正統派ナンパAVは息をひそめることになりました。
現代における素人とは
上記の通り、現代で残る本物の素人といえばネット上で自らの性を公開している一般女性を指すことになるでしょう。
そのような女性の中には、AV女優を目指す女性が少なくありません。
例えば人気女優の初美沙希は女子高生のころからビデオチャットで活動して人気を集める中で、男性を喜ばせる仕事に就きたいと考えてAV女優になる事を決めました。
また、片桐えりりかはニコニコ生放送で全裸ダンスなどの過激な配信で人気者となった後にAV女優となりました。
このほか、本人の意思とは無関係にプライベートのハメ撮り画像などが流出して有名になってしまい、AV女優になる女性もいます。
しかし、話題を集めるためにAVデビューが決まった女性がビデオチャットなどの行為で話題作りを行ってからAVデビューするケースも出てきており、素人の定義は非常に曖昧になっています。
それでも素人というキーワードには魅力があり、その魅力はまだまだ衰える気配はありません。